2025 年 秋号
Vol.94
立山・室堂平(むろどうだいら)の風景
-1_ページ_1_画像_0001.jpg)
-1_ページ_1_画像_0002.jpg)
秋号の写真としては異例ですが、涼しさが感じられる山岳写真を掲載しました。
場所は長野県の立山・室堂平(むろどうだいら)です。
写真左は雄山(おやま)と大汝山(おおなんじやま)です。
手前のみくりが池の湖面には雄山が逆さまに映るのですが、あいにく風でさざ波が立って
おり、白雲が震えたように映っています。
写真右は付近で撮影した高山植物クルマユリのようです。
山中の雪渓で涼しさを感じて頂けたらと思います。
(2025年7月 撮影 山内 康伸)
1
負けない明細書
(山内 康伸)
(1)負けない明細書=スキの無い明細書
今回のテーマ「負けない明細書」は、紛争が生じたとき、たとえば侵害紛争解決の調停を進めているとき、あるいは侵害訴訟が係属しているときに、相手方から解釈上のスキを突かれない明細書であることを意味しています。
紛争が生じたときの解釈上のスキとは、権利者が意図した意味と異なる方向の解釈が生じかねないリスクと云っていいでしょう。
経験的にいって、解釈上のスキは、明細書で使用する用語、とりわけ特許請求の範囲で使用する用語の選択にあると考えています。
(2)ある明細書における解釈上のスキ
山内が駆け出し弁理士だった頃に経験した事例でお話しします。
ある侵害事件における本件特許は水力機械(たしかポンプ)でした。特許発明の特徴部分は、回転軸を支持する軸受部分のシール構造にあり、用いられるシール部材として、特許請求の範囲では「Oリング」と特定されていました。
Oリングという意味は、当時の私のもつイメージは、外観的に見たらアルファベットのOの形になっているゴム製のパッキンといったものでした。
ところで、私は被疑侵害者の代理人という立場でした。被疑侵害品を良く見ると、シール構造の機械的構成は実質同じであり、シール部材の形は多少違っていました。シール部材の断面形状が円ではなく長四角だったのです。
しかしながら、Oリングとは外観上の見かけがアルファベットのOに似ているものと思っていた私には、相違点が見つかりませんでした。
しかし、それでは被疑侵害者の代理人としての責務は全うできませんので、何とか相違点を見出そうと半日位ウンウンと唸っておりました。その時、ふと思い付きJIS用語辞典でOリングを調べてみました。驚きました。私には思い込みがあったのです。
JIS(日本産業規格)では、以下のように規定しています。
| 1204 | スクィーズパッキン | Oリング,角リングなどのように,つぶしろを与えて使用する成形パッキンの総称。 | squeeze packing | |
| 1211 | Oリング | おーりんぐ | 断面が円形のリング状のスクィーズパッキンで,ガスケットにも用いられる。 | O ring |
| 1212 | 角リング | かくりんぐ | 断面が角状のリング状のスクィーズパッキンで,ガスケットにも用いられる。 | square ring |
(3)技術用語「Oリング」の真の意味は
JISによれば、OリングのOは断面形状から来ている特定だったのです。これを見て驚いた私は、普通の意味だと被疑侵害品のシール部材は、Oリングではなく「角リング」に分類されると理解したのです。
この発見は、もちろん当方の主張に反映させました。
結果は、相手方が侵害の主張を取り下げ、この紛争は和解で終息しました(本件は和解に伴い訴訟は取下げられたので、判決はもちろん出ません)。
(4)教訓
本件は一気に終息したものの私には強い教訓が残りました。
自分が出願代理人だったら、きっと特許請求の範囲に「Oリング」という用語を疑いもなく使っていただろうと思うのです。私が企業の技術部に居た頃、まわりのみんながごく普通にOリングという用語を使っており、アルファベットのOに似た外観のパッキンは全てOリングという呼び方をしており、私もそう思っていたからです。
自分は多少は知っている。この思い込みが危険なのですね。知っている言葉でも念を入れて確認する。基本の大事さを思い知らされました。
ところで、Oリングを普通の意味に判断した裁判例があります。私は関与していませんが、参考までに以下に示します。
[裁判例]東京地裁平成 14 年 1 月 28 日判決、平成 12 年(ワ)第 27714 号
(1) 構成要件Dの「Oリング状」の意義について
構成要件Dの「Oリング状」は,以下のとおりの理由から,「円形断面の環状パッキングの形状,又はこれと類似の形状」を意味し,「筒状」は含まれないと解すべきである。
すなわち,本件各証拠及び弁論の全趣旨によれば,①本件明細書のいずれをみても,「Oリング状」について,特別の意味で理解すべきとする記載箇所はないこと,②原告は本件意見書の中で,…「本発明における弾性体として利用できるOリング状部材の典型的例は,市販の『Oリング』であります。一般的な市販の『Oリング』は,断面円形状です。」と述べている点に照らすならば,原
告は本件発明における「Oリング状」の意味を一般的な意味を念頭に置いて理解していたものと認めることができ…
(5)幾つかの注意点
以上のほか、解釈上のスキを無くすための注意事項、主なものだけ以下に示します。
① 特許請求の範囲および明細書で用いる用語は普通の意味で用いると規定されています(特許法施行規則24条様式29、同24条の4(様式29の2))。
特定の意味で使用する場合は、定義をおかなければなりません。
② 技術用語は学術用語を用いることになります。
学術用語は、学術用語集やJIS用語辞典で確認することができます。
③ 技術用語であっても、業界により意味が異なることがあります。
たとえば、「粒径」とは粒子の大きさを示すものと一般的には理解され、そのような用法も存在します(JIS規格Z8122)が、ある特定の技術分野では「ふるい分け法によって測定した試験用ふるいの目開き」で表示するものがあります
(JIS規格Z8901)。
④ 用語のもつ概念で充分か検討する。
語句の持つ概念は、一般に一義的でなく広いのが普通です。たとえば「可撓性(かとうせい)」という言葉は、曲げが可能という意味ですが、どのような場合にも「可撓性がある」と記述しておけば足りるというものではありません。
可撓性の程度が、発明の内容を左右するような場合は、その程度も充分明瞭に記載しておくべきでしょう。
2
日本弁理士会四国会設立20周年記念
~企業の成長を支える著作権セミナー~
弊所副所長 山内伸が会長を務める日本弁理士会四国会からのお知らせです。
-1_ページ_4_画像_0001-1024x379.jpg)
日本弁理士会四国会では設立20周年を記念して「企業の成長を支える著作権セミナー」を開催いたします。
先着150名様限定ですので、お早目にお申込みください。
昨今、「著作権」というワードを耳にすることが増えたのではないでしょうか?デジタル化が進み、コンテンツ業界とは関係のない企業でも、著作権の知識が求められる時代になっています。「うちの企業は関係ない」と思っていませんか?実は企業でも知らずに他人の著作物を使用している場合があるのです。第一部記念講演では、著作権侵害の加害者にならないために他人の作品を使うときの注意点を、著作権侵害の被害者にならないために自社の作品を守る手段をお伝えします。
第二部パネルディスカッションでは、「島唄」、「風になりたい」など数々の名曲を世に送り出し、今も多くの人々の心に響く音楽を届け続ける宮沢和史氏をゲストに迎え、「音楽と著作権の未来」について語り合います。音楽が世代を超えて受け継がれていくために著作権に求められることは何か。歌が紡ぐ物語に耳を傾けながら、クリエイティブと権利のあり方を一緒に考えます。
【日 時】2025年11月28日(金) 15:00 ~ 17:10 (受付開始14:30)
【会 場】JRホテルクレメント高松 3F「飛天」
【参加費】無料
【定 員】先着150名様
【申込期限】2025年11月14日(金) 定員に達し次第締め切らせて頂きます
【内 容】
第一部/記念講演
「もう怖くない!企業における著作権実務」
講師:橋本阿友子(弁護士・骨董通り法律事務所)
第二部/パネルディスカッション
「未来に残したい歌がある~宮沢和史氏と考える音楽と著作権の未来~」
ゲスト:宮沢和史(アーティスト)
パネリスト:橋本阿友子(弁護士・骨董通り法律事務所)
パネリスト:岸本智久(弁理士・日亜化学工業株式会社)
モデレーター:城田晴栄(弁理士・株式会社ループホール)
【申込先】以下のウェブサイトからお申込みください。
https://jpaa-shikoku.jp/lp/20th.html