2025 年度 冬号
Vol.95
ニュースの目次
冬景色には少し早い「ひの字渓谷」

徳島県の祖谷渓(いやけい)にある「ひの字」渓谷です。
小さな山が川に縁取られた形がひらがなの「ひ」の字に似ているので、そう呼ばれています。
この辺りは源平合戦に敗れた平氏が逃げ込んだといわれる山深い所です。
(2025年12月 撮影 山内 康伸)
1
顧客を作れる明細書
(山内 康伸)
[1]侵害の態様を考慮したクレーム
(1)侵害の発生段階
特許侵害は、製品の製造から販売、使用に至る様々な段階で発生する可能性がある。たとえば、完成品、中間品、完成品の部品などがそれぞれ侵害対象となることがある。そこで、これらの各侵害対象に対応したクレームを、多項制を活用して組立てておくと、侵害追及がやりやすくなる。
たとえば、製品クレームだけでは、部品や中間品に対しては間接侵害規定(特許101条)に頼らざるを得なくなり、この場合、間接侵害の要件(専用品を意味する「のみ」の要件や「課題解決に不可欠なもの」等の要件)の立証が容易ではなく、侵害追及が困難なことがある(裁判例1参照)。したがって、間接侵害よりも直接侵害として追及できる部分装置や中間品、部品等のクレーム(下記クレーム例1参照)をもっておく方が、侵害排除がより確実になる。
(2)訂正による化粧直し
また、実際に侵害品が現われた場合は、出願中なら補正により、特許後なら訂正審判によりそれを明らかに含むようなクレームに修正すべきである。出願当初から侵害品の形態を予測することは不可能に近いが、侵害品が現われたときの対応は可能なときもある。また、このような対応を可能とする情報収集チャンネルを日頃から整備しておくべきである。
(クレーム例1)
【請求項1】
……自動車ライブ情報を検出するモニタリング装置と、
………………………………………ファイリング装置と、
……………………………………………送信処理手段と、
……………………………………………受信処理手段と、
からなる自動車の事故情報管理設備。
【請求項15】
……………を特徴とするモニタリング装置。
【請求項31】
……………を特徴とするファイリング装置。
【請求項35】
……………を特徴とする送信処理手段。
[裁判例1]東京地裁平成 12 年 3 月 23 日判決、平成 11 年(ワ)第 5323 号、電解生成殺菌水事件
間接侵害(特許法101条1号)に当たるというためには,被告各装置が本件発明の生産にのみ使用する物であること,すなわち,被告各装置に本件電解生成殺菌水を生産すること以外に商業的、経済的に実用性のある用途がないことが認められる必要がある。この点についての立証責任は、間接侵害を主張する原告が負うものというべきである。
[2]技術移転を考慮したクレーム
(1)技術移転に問われるもの
大学等から民間企業への技術移転、あるいは民間企業同士の技術移転は、移転先企業が事業化した場合に有効に侵害排除できることが重要な成功要件となる。そのため、移転技術の特許は侵害排除能力の高いことが必要である。そのためクレームの立て方は、前記[1]と同様な注意が必要となり、製品クレームの外に、重要な部材、部品等のみを対象とする要素クレームも必要となる。また、これらのクレーム中の各構成要件について、いわゆる特許もぐりを許さないような、細かな文言チェックが必要となる。すくなる。
(2)代替技術も
さらに重要なのは、移転技術とは異なるコンセプトあるいは一部変更した代替技術の特許化である。特許技術の模倣は排除できても第2、第3の代替技術で市場競争されれば、先行者利益を守るのは困難となる。
よって、代替技術もクレームに含めるか、単一性の条件によって同一出願が無理であれば、別出願によって侵害排除が可能なレンジを広げるべきである。
また、このような対応は出願当初から予測することは困難であるが、技術移転にまつわる情報のフィードバックがあれば予測性は高くなる。よって、技術移転関係者からの情報収集チャンネルを整備しておくべきである。
2
海外代理人との交流(イタリアとイタリアの代理人)
(原 一敬)
1.特許出願におけるイタリアの位置づけ
イタリアと言う国を知らない人はいないでしょう。サッカーなどのスポーツ、レオナルドダヴィンチなどの芸術、フェラーリなどの名車を生産しているメーカなど、イタリアは日本人に大変なじみのある国です。私も大学生のころ、旅行でイタリアを訪問しました。機会があればもう一度訪れてみたい国の一つです。しかし、特許に関しては、イタリアと言う国についてなじみのある日本人は少ないのではないでしょうか。私も会社員として19年、特許事務所に勤めて15年経ちますが、イタリアでの出願およびイタリアの代理人に、こちらから積極的にかかわることはなく、またイタリアの代理人側から我々日本の出願に積極的にかかわることもこれまでは少なかったです。
2.イタリアの代理人との交流
昨年9月にAIPPI(国際知的財産保護協会)の年次大会が横浜で開催されました。このAIPPIは、世界最大級の知的財産専門家の国際団体であり、知的財産の国際ルールづくりに、実務家が直接関与する場です。この大会に訪れたイタリアの代理人が、弊所を訪れ、先方からはEPOへの出願およびイタリア単独での出願について情報をいただくとともに、こちらからはイタリアから日本への出願についての情報を提供しました。
このイタリアの代理人の訪問の半年ほど前に、たまたま顧客から単独でのイタリア出願の可能性の話があったこともあり、今後このような場合の費用感などを確認できました。この顧客からは、欧州出願とするか、単独でドイツとイタリアに出願するか、について相談を受けるとともに、費用感を把握したいと依頼がありました。見積を取る際に、イタリアへの直接のパイプがありませんでしたので、ドイツの代理人にイタリア出願の見積をお願いしたところ、ドイツ出願と比較して非常に費用が高額になっていました。この点についてイタリアの代理人に確認したところ、ドイツ代理人とイタリア代理人の2つを介しているためだろうと言われました。実際のところイタリアの出願でかかる費用は、ドイツなど他国への直接の出願と大きく変わらないそうです。
このような費用感などは、実際に話してみないとわからないこともあり、継続して出願を行う場合は、大きく費用が変わります。こういった点で、イタリアの代理人と直接話すことができたことは有意義でした。今後も、特許的になじみのない国へ出願することが発生することもあるでしょう。この場合でもできるだけその国の代理人と直接連絡を取れるパイプを持つようにしたいと考えています。

3
地域ブランドを守る手段-地域団体商標とGI 登録 -GI 登録の先使用期間(令和8年 1 月 31 日)-
(山内 章子)
(1)農林水産物のブランド化においては、地名と普通名称から構成されるブランド名や特定の地域を連想させるブランド名が多いです。このようなケースの場合、地域団体商標として商標権の保護だけでなく、農林水産物等の地理的表示(以下、GI登録という。)としての保護も可能であり、現在、農林水産物のブランド化において、地域団体商標の登録とGI登録の両方の保護の仕組みを利用する団体が増えてきています。
特に、GI登録においては、原則「25年の生産実績が必要」とされていましたが、令和4年に運用の改正によって、25年以下の実績年数であってもGI登録ができるようになりました。また年に一回提出が必要であった実績報告書の提出も廃止されたため、実務的に生産者団体にとって負担が軽くなったものと考えます。
商標制度においては、商品の品質は商標権者の自主管理であるのに対し、GI登録においては、登録生産者団体が定めた生産方法の基準を守るように管理する必要があります。国は生産者団体による管理をチェックします。そのため、GI登録は国がその品質を保証する制度ということができます。
実務的に、農林水産物の生産者団体にとって、商標制度又はGI制度を利用するのか、それとも両制度によって保護を図るのか、それぞれの登録可能性や効果の違いを踏まえ、具体的に検討することとなりますが、地域ブランドの積極的な保護を図るのであれば、両制度の利用をお勧めします。
なお、具体的な産品については、これらの制度だけでなく、特許権(場合によって実用新案権)、品種登録、ノウハウ管理も含めた複数の知的財産権で権利の保護を図る、いわゆる「知財ミックス」を意識するのが有効と考えます。
| 地域団体商標 | GI登録 | |
| 概要 | 地域ブランドの名称を商標権として登録する。その名称を独占的に使用することができる制度。 | 生産地と結び付いた特性を有する農林水産物・食品等をその名称、特性、生産地、生産の方法等とともに登録する制度。 |
| 登録要件 | ・地域名称と商品・サービスが関連性を有すること ・商標が需要者の間に一定の地理的範囲において、広く認識されていること | ・生産地特有の特性 ・おおむね25年の生産実績 (令和4年運用改正で、実績年数について緩和され短縮可能となった。) |
| マーク | ![]() | ![]() |
| 規制手段 | 商標権者による差し止め請求、損害賠償請求 | 国による不正使用の取り締まり(当該表示の除去又は抹消) |
| 管轄 | 特許庁 | 農林水産省 |
(2)GI登録の先使用期間
特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(以下、GI法)では、登録された地理的表示について、登録前より当該名称の表示を使用していた者が、他者の地理的表示の登録により突然、表示を使用できなくなり不利益を被ることがないよう、一定期間は、引き続きその表示を使用することを認めています。
ただし、この先使用期間は、地理的表示の登録日から7年と定められており(GI法第3条第2項第4号)、商標法の先使用権の考え方とは大きく異なります。

このGI法の先使用期間は、平成31年のGI法改正において規定されたもので、改正法施行日(平成31年2月1日)前にGI登録された産品(約68登録)の名称については、一律で、先使用が認められている期間が、令和8年1月31日までとなります。
令和8年2月より順次先使用期間が経過する産品が出てくるため、自己の使用が問題ないか確認が必要となります。
詳しくは、農林水産省のWebサイトに掲載されている「地理的表示(GI)保護制度における先使用に関する手引き」(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/outline/sensiyou_tebiki.pdf)をご確認ください。

