物 語
The Story of an Antique Clock

「物 語」

 1871年、その時計には米国デザイン特許が与えられた。特許番号第4986である。アメリカでは南北戦争が終わって6年、日本では明治維新がなって3年の後であった。ちなみに、あのグラハム・ベルが電話を開発し、特許取得したのが、その5年後の1876年である。

 当時のアメリカは、南部では綿花農業が経済の基礎であり、北部では工業が発展し、電話や時計などの新時代を象徴する技術開発が活発に行われた時代であった。
 デザイン特許No.4986の時計は、縁あって日本に輸入され、四国は香川県のさる旅館の柱に掛けられ、文明開化の明治人士に時を知らせていた。それが我が家に伝わる柱時計である。

 私が中学に入り、英語を習い始めた頃、振子が奥に入っている扉を開けると、“Patented Jun.13,1871”という文字が印刷されているのに気が付いた。
 辞書で“Patent”のところを見ると、「(…の)特許(権)、He take out a ~ for an invention…」などと解説されている。これらの文言に興味をひかれたことが後年、私を特許の世界に導いたきっかけとなったものである。

 さて、この時計、心臓部のバネはハンドメイドで鍛えたものらしく、今や交換は効かない時代物である。しかし、品質が良かったのか今も現役で、近代的なオフィスビルの中で150年前から変らぬ時の音を響かせている。ゆるやかに「ボーン、ボーン」となる音色は、バネを鍛えた職工の仕事振りをも感じさせている。
「永年たっても評価される品質」、我々の仕事もそうありたいと願い、この時計を弊所のシンボルとしている。