パテントニュース

2025年度 春号

Vol.92

栗林公園の白梅

香川県高松市の栗林(りつりん)公園は、国の特別名勝に指定されている文化財庭園です。
白梅は早春を告げるようにまだ寒さの残る3月には咲いてくれます。
(2025年3月 撮影 山内 康伸)

本年度は明細書を通して知財活動を考えたいと思います。予定は以下のとおりです。
春号:勝訴できる明細書
夏号:稼げる明細書
秋号:負けない明細書
冬号:顧客を開拓できる明細書
を予定しています。第1弾「勝訴できる明細書」は、2頁以降をご覧下さい。

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勝訴できる明細書、さあどう闘う!

(山内 康伸)

1.勝訴できる明細書とは!

勝訴できる明細書とは何か、これはもう言い尽くされている感じです。
抵触論で言い分を通すため、特許請求の範囲(で定まる技術的範囲)を広い概念となるようドラフトする、それに合わせ実施形態の開示を豊富にするなどが基本中の基本となります。
そして、無効論で足をすくわれないように、公知技術との違いを明確にしたり、本件発明の効果をアレコレと書き足すなどです。
言うは簡単ですが、抵触論と無効論は二律違反の世界にあって、両立はかなり大変です。
とりわけ無効論のタネ(公知技術)は世の中に無尽蔵にあり使い放題なのに、防戦する側は明細書に書かれた範囲内という制約があって、権利者側のハンディはかなり大きいものです。
それがあってか、侵害訴訟の判決における認容率は約21%、棄却率は約45%です。なお、無効論は侵害訴訟全体のなかの76%で争われ、有効判断は19%、無効判断は20%となっています(特許権の侵害に関する訴訟における統計(東京地裁・大阪地裁、平成26年~令和5年)知的財産高等裁判所ウェブサイトより)。
ですので、意外と勝てないイメージです。

2.闘うには複数の明細書で

このような実態を考えますと、闘うのは1件の明細書に依存するのではなく、闘える明細書を複数持っておく考え方も必要かと考えます。このことは良く出来た明細書で闘うという戦術だけでなく、闘える明細書を多く揃えて有利な体勢で闘ったり、あるいは戦わずして勝つという戦略面に注目する考え方です。なお、弁理士は闘える明細書を目指してドラフトしていることは云うまでもありません。
こうした考えには、歴史的な先例があります。
戦国時代の有名な武将である織田信長は、寡兵(かへい)よく大軍を破った桶狭間の戦いで有名ですが、これは例外的な闘いであって、その後の合戦は「確実に合戦に勝つためには相手よりも多数の戦力を集う」を基本としていたようです。これは言い換えますと「戦うときには相手よりも優勢である=相手より優勢でなければ戦いを回避する」ことだと云われています(歴史に学ぶ組織管理のノウハウ、久本之夫著、1998年10月29日第1版第1刷発行、PHP研究所)。

3.基本発明特許と改良発明特許

特許権の争いに上記2の考え方を当てはめると、基本発明の特許に加え、周辺技術の特許も加え、特許の戦力に厚みを持たせるという考え方になろうかと思います。
具体的には、下図に示すように基本発明に対する(I)製品特許、(II)要素技術、(III)周辺装置、(IV)代替技術、(V)改良技術、(VI)製造技術などの面で特許取得を展開できそうです。
このうち、要素技術の特許化と改良技術の特許化は必須でしょう。

4.知財部の役割

ただし、特許の数を揃えるだけでなく、闘いに強い備えとするには、技術の流れを予測し、予測先にある技術につき特許取得する計画性が大事と思います。そして、こうした技術予測には、パテントマップが使えると体験的に考えています。
パテントマップの一例を1991年から10年計画のプロジェクトとして開始されたMEMS開発を例にとって見てみます。
MEMSを構成する技術要素の出願件数推移は、下図のようでした。

この図を見れば、各技術要素の時系列での変動が容易に分かります。
そして、これらの技術要素についての課題の分布は、下図のようでした。
課題として注目されていたのは、高精度化、特性向上、製造性向上などが多かったようです。

こうした技術要素と課題の組合せを材料にして、SWOT分析を行うと自社技術と他社技術の強みと弱みを見出すこともできます。こうしたパテントマップで将来予測をすれば、有力なインテリジェント情報となります。
技術開発の方向付けに、こうした情報分析を知財部が提供できれば、知財活動が技術開発と事業展開とを結びつける三位一体の活動になるはず、と考えます。もっとも地道な分析活動を続ける必要があり、言うは易く行いは難しいですが。以上、体験的私見です。

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海外知財制度の紹介(欧州における単一効特許および統一裁判所のその後)

(原 一敬)

1.統一特許裁判所協定の発効

統一特許裁判所協定が発効されたのは、2023年6月1日です。その後2年近くが経過し、新しい制度の利用状況も報告されるようになってきました。今回は、単一効特許と統一裁判所の利用状況などを、セミナーおよびCIPA(英国公認特許代理人協会)ジャーナルに基づいて紹介いたします。

2.単一効特許

図1 国ごとの単一効特許取得割合
CIPAジャーナル 2024年5月号

上記の図は、昨年の5月にCIPAジャーナルに掲載された単一効特許の国ごとの取得割合を示したグラフです。横軸は国名、縦軸は特許査定後の単一効特許の取得割合を示しています。このグラフは、統一特許裁判所協定の発効後8か月分のデータとなります。
デンマーク(DK)、スペイン(ES)では取得割合が40%を超えているのに対し、米国(US)、中国(CN)では10%台前半となっています。日本(JP)はさらに10%を切っています。登録後の年金等の維持コストは、単一効特許1件について4か国分といわれています。単一効特許の取得割合は全体として20%程度ですが、デンマーク等の欧州各国では、複数国での権利取得を行うことが多いため単一効特許の取得割合が多いのではないかと推測できます。また、特に日本の出願人においては、新たな制度に対する様子見を行っているため、単一効特許の取得割合が少ないのではないかと考えられます。
ちなみにスペインは、統一特許裁判所協定に参加していないにもかかわらず、単一効特許の取得割合が40%を超えています。スペインの出願人は、自国以外の他の欧州各国での権利化に熱心であることがわかります。また、EUから離脱した英国(GB)での単一効特許の取得割合は25%程度で、平均を少し上回る程度の割合となっています。
なお2023年6月以降毎月約2,000件前後の単一効特許が取得され、累積では2024年5月時点において、約28,000件の単一効特許が登録されています。

3.統一特許裁判所

統一特許裁判所は、約12か月以内に判決を出すことを目標としており、これまでのところ、おおむねその目標を達成しているとCIPAジャーナルで紹介されています。以下に、侵害訴訟の部門別件数と、使用されている言語のグラフを示します。

図2 部門別侵害訴訟割合
CIPAジャーナル 2024年6月号
図3 侵害訴訟での使用言語の割合
CIPAジャーナル 2024年6月号

部門別侵害訴訟の割合のグラフを見ると、圧倒的にドイツが多く、全体の78%を占めています。統一特許裁判所協定におけるドイツの立ち位置を考慮すると、このような状況になるのは必然であると思います。また、侵害訴訟の大半がドイツで行われているため、現在の侵害訴訟の言語の多く(全体の55%)がドイツ語であるのも必然であると思います。ドイツ語の使用が多いのは、統一特許裁判所の言語として英語が認められることが発表された時期が遅く、初期に提起された事件での使用言語の多くがドイツ語であったためであり、今後は英語の使用が増えていくとCIPAジャーナルでは言及されています。
統一特許裁判所関連のセミナーでは、仮差止命令が統一特許裁判所より認められる案件が増えていることが報告されました。例として、国際展示会の期日に合わせて仮差止命令が認められたケースなどが紹介されました。
日本の出願人の多くは英語で出願をしており、訴訟を提起する場合も通常英語を採用することとなると思います。統一特許裁判所において英語で対応ができるのは日本の出願人に有利になります。しかし、短期間での権利行使を視野に入れると、ドイツにおける部門で、ドイツ語で訴訟を提起することも、メリットが大きいのではないかと感じています。

5.まとめ

統一特許裁判所が稼働し始めて2年、各国ごとの裁判では、裁判所が多数のバックログを抱えているため、訴訟の提起から判決を得るのに長い年月を要していますが、統一特許裁判所はバックログがなく、現在のところ判決を得るまでの期間は、これまでと比較して短くなっています。この期間の利益を継続的に享受できるのであれば、特許を維持するコストを差し引いても単一効特許を選択するのが妥当かもしれません。今後も、欧州の単一効特許、統一特許裁判所の動向を、機会を見て紹介していきたいと思います。

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